ペースメーカーで障害年金は原則3級|装着日が認定日になる特例を社労士が解説【2026年最新版】
「不整脈でペースメーカーを入れることになった」「弁を人工弁に取り替えた」「心筋梗塞で倒れてから、坂道を上がるのがつらくなった」――長門市・萩市・美祢市でお話を伺っていると、心臓の病気は本当に身近な病気だと感じます。
その一方で、障害年金の対象になりうることをご存じない方が、とても多いのも心臓の病気です。とくにペースメーカー・ICD(植込み型除細動器)・人工弁の3つには、ほかの病気にはない大きな特例が用意されています。装着した日が、そのまま障害認定日になるという特例です。原則より最大で1年6か月早く請求できます。
ただし、この話には必ずセットで知っておいていただきたい落とし穴があります。ペースメーカー装着で目安となる「3級」は、障害厚生年金にしかない等級だということです。初診日に国民年金だけだった方は、3級相当にとどまる限り1円も支給されません。「入れたらもらえます」と単純に書いてある説明を読んで期待し、あとでがっかりされる方を何人も見てきました。
この記事では、山口県長門市の社労士が、装着日が認定日になる特例、機器ごとの等級の目安、初診日で結論が変わる分かれ道、令和8年度の受給額、そして申請の進め方までを図解8点で整理します。等級と金額の記述は、すべて日本年金機構の一次資料(障害認定基準・障害年金ガイド)で確認したものだけを載せています。
1. ペースメーカーを入れた日が、そのまま「障害認定日」になります
いちばん大事なことを最初に書きます。障害年金は原則として、初診日(その病気で初めて医師にかかった日)から1年6か月経った日に、障害の重さを判定します。この日を「障害認定日」といいます。ところが心臓については、この原則に対する例外が置かれています。
心臓ペースメーカー・ICD(植込み型除細動器)・人工弁の3つだけは、「装着した日」が障害認定日になります。日本年金機構の「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」に、はっきりそう書かれています。
(10)心臓ペースメーカー、又はICD(植込み型除細動器)、又は人工弁を装着した場合の障害の程度を認定すべき日は、それらを装着した日(初診日から起算して1年6月を超える場合を除く。)とする。
出典:日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第3 第1章 第11節 心疾患による障害 2 認定要領(10)(令和4年4月1日改正)
つまり、最大で1年6か月早く請求にたどり着けるということです。当事務所でも「手術から1年半経つのを待たなければいけないと思っていた」「そんな制度があると聞いていなかった」というお話を伺うことがあります。待っている間の分は、後述の時効の問題にもつながります。
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1-1. ただし「装着日が必ず認定日」ではありません
条文の括弧書きに注目してください。「初診日から起算して1年6月を超える場合を除く」とあります。装着した日が初診日から1年6か月を超えたあとに来る場合、この特例は使えません。その場合は原則どおり、初診日から1年6か月を経過した日が障害認定日になります。
「装着した日が必ず障害認定日になる」と書いてある説明を見かけますが、正確ではありません。初診日から1年6か月以内に装着している場合の話です。
1-2. この特例が使えるのは3つだけ
「心臓に機器を入れたら、その日が認定日」ではありません
認定基準が装着日を認定日とすると明記しているのは、心臓ペースメーカー・ICD・人工弁の3つだけです。CRT(心臓再同期医療機器)・CRT-D、人工心臓、心臓移植、人工血管(ステントグラフト)は、この条文に列挙されていません。心筋梗塞や心不全そのものにも、この特例はありません。日本年金機構が用語集で列挙している障害認定日の特例(人工透析、人工関節、人工肛門など8項目)にも、人工血管は含まれていません。
この違いは金額に直結します。心筋梗塞で倒れた方が「心臓の病気だからすぐ請求できる」と考えて年金事務所に行き、原則どおり1年6か月待つことになった、というのはよくある話です。装着物(ペースメーカー・ICD・人工弁)とそれ以外は、はっきり分けて考えてください。
そして、すでに何年も前に装着されている方。過去の装着日にさかのぼって請求できる可能性があります。ただし年金には5年の時効があります。詳しくは障害年金の遡及請求とは?過去5年分を取り戻す方法で解説していますが、本記事の第9章でも心疾患に即して整理します。
2. 心疾患の障害年金は「原則3級」から――機器ごとの目安
では、どの等級になるのか。認定基準は心疾患を6つの区分(弁疾患/心筋疾患/虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)/難治性不整脈/大動脈疾患/先天性心疾患)に分け、それぞれについて等級に相当すると認められるものを例示しています。装着した機器についても、次のように書かれています。
2-1. ペースメーカー・ICDは3級の例に挙げられている
「④ 難治性不整脈」の3級の例示に、「1 ペースメーカー、ICDを装着したもの」と明記されています。装着したという事実だけで、3級相当が目安になるということです。
2-2. 人工弁も3級。2つ入れても原則は変わらない
「① 弁疾患」の3級の例示にも、「1 人工弁を装着したもの」とあります。あわせて2つの注記が置かれています。
注1 複数の人工弁置換術を受けている者にあっても、原則3級相当とする。
注2 抗凝固薬使用による出血傾向については、重度のものを除き認定の対象とはしない。
出典:日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第11節 心疾患による障害 2 認定要領(9)①(令和4年4月1日改正)
弁を2つ取り替えても、原則として等級は上がりません。また、ワーファリンなどの抗凝固薬を飲んでいること自体は、等級を押し上げる材料にはならない、とされています。ここは誤解の多いところです。
2-3. CRT・CRT-Dは2級、人工心臓・心臓移植は1級
「⑦ 重症心不全」の項目では、心臓移植や人工心臓等を装着した場合の障害等級として、心臓移植は1級、人工心臓は1級、CRT(心臓再同期医療機器)・CRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器)は2級と定められています。ペースメーカー・ICDの3級より上位です。
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ただし、この⑦には次の但し書きが付いています。
ただし、術後は次の障害等級に認定するが、1~2年程度経過観察したうえで症状が安定しているときは、臨床症状、検査成績、一般状態区分表を勘案し、障害等級を再認定する。
出典:日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第11節 心疾患による障害 2 認定要領(9)⑦(令和4年4月1日改正)
CRT-Dを入れたから一生2級、というわけではありません。経過観察のうえで等級が見直される前提の条文です。更新(再認定)については障害年金の更新(再認定)完全ガイドもあわせてご覧ください。
2-4. 「例示」であって、チェックリストではありません
ポイント:機器だけで自動的に等級が決まるわけではありません
認定基準の該当箇所は、原文で「疾患別に各等級に相当すると認められるものを一部例示すると、次のとおりである」と書かれた例示です。総論には「臨床症状、X線、心電図等の検査成績、一般状態、治療及び病状の経過等により、総合的に認定する」とあります。つまり、ペースメーカーを入れていても状態が重ければ上位等級の道は開かれていますし、逆に例示に当てはまるからといって自動的に決まるものでもありません。最終的な判断は日本年金機構が行いますので、ご自身で「該当しないから無理だ」と結論を出さないでください。
なお、補助人工心臓(VAD)については、認定基準の条文に「人工心臓 1級」とあるだけで、補助人工心臓という語そのものは条文に出てきません。この記事では断定を避けます。該当される方は個別にご相談ください。
3. いちばんの分かれ道は「初診日に、どの年金に入っていたか」
ここが、この記事でもっともお伝えしたいところです。第2章で「ペースメーカーは原則3級」と書きました。ところが、3級という等級は、障害厚生年金にしか存在しません。
障害基礎年金(国民年金)にあるのは1級と2級だけです。障害厚生年金には1級・2級・3級があります。したがって、「ペースメーカーを入れたから3級」という話が実際に年金につながるのは、初診日に厚生年金に加入していた方に限られます。
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3-1. 初診日に国民年金だけだった方の場合
3級相当にとどまる場合、障害基礎年金は支給されません
初診日に国民年金だけだった方(自営業・農業・専業主婦の方など)は、状態が3級相当にとどまる限り、障害基礎年金は支給されません。障害手当金(一時金)も「初診日に厚生年金保険の被保険者であること」が要件ですので、対象外です。期待させて裏切るようなことは書きたくないので、はっきり申し上げます。
3-2. ただし「国民年金なら必ずだめ」ではありません
大切なのは書き分けです。支給されないのは「3級相当にとどまる場合」であって、国民年金だからすべてだめ、ということではありません。心臓の状態が2級以上に該当すれば、初診日が国民年金でも障害基礎年金2級の対象になりえます。
具体的には、心不全の症状が続いていて、一般状態区分表(第6章で解説します)のウ・エ以上に当たるような状態です。ペースメーカーを入れていても、そのあと心不全が進んで日常生活が大きく制限されている方はいらっしゃいます。「装着したという事実だけで届く3級には障害基礎年金がない」というだけの話だと理解してください。
3-3. 判定は「初診日時点」の加入制度で決まる
もうひとつ、見落としやすい点です。判定に使うのは初診日時点の加入制度です。
- 初診日に厚生年金に加入していれば、その後に退職して国民年金になっていても、障害厚生年金3級を請求できます。
- 逆に、退職してから初めて受診した場合は、国民年金として扱われます。
会社を辞めてしばらくしてから体調を崩された方が、「もう会社員ではないから無理だろう」と諦めておられることがあります。その病気で最初に医師にかかったのがいつかを、まず確かめてください。
だからこそ、心疾患の申請は「初診日の特定」が入口になります。動悸や高血圧で長年かかりつけ医に通っていた方、健康診断で心電図の異常を指摘されて受診した方、心筋梗塞で救急搬送された方――どこを初診日と見るかで結論が変わります。詳しくは障害年金の初診日とは?証明方法と初診日不明の対処法、制度の違いは障害厚生年金と障害基礎年金の違いをご覧ください。
65歳を過ぎてからの初診日は、そもそも請求できないことがあります
高齢の方にいちばんお伝えしておきたい注意点です。障害基礎年金は、初診日が次のいずれかの期間にあることが要件とされています。①国民年金の加入期間中、②20歳前、③日本国内に住んでいる60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間――の3つです。老齢基礎年金を繰り上げて受給している方は除かれます。
国民年金の第1号被保険者の資格は60歳で終わります。ですので、すでに65歳を過ぎていて、厚生年金にも加入していない方が、いまペースメーカーを入れて初診日を迎えた場合は、状態が2級相当であっても障害基礎年金は請求できません。障害厚生年金も「厚生年金保険の被保険者である間に初診日があること」が要件ですから、こちらも対象外です。
逆に言えば、まだお勤めで厚生年金に加入している方は、65歳を過ぎていても初診日が厚生年金の期間にあれば障害厚生年金の対象になりえます。また、いまが何歳かではなく初診日が何歳のときだったかで決まりますので、「もう歳だから」と決めつけず、まず初診日を確かめてください。
出典:日本年金機構「障害年金ガイド 令和8年度版」1ページ「受給要件」・3ページ「受給要件フロー」
3-4. もうひとつの関門:保険料の納付要件
障害の程度と初診日のほかに、保険料の納付要件を満たしている必要があります。原則の要件のほかに「直近1年間に未納がないこと」という特例がありますが、この特例は初診日において65歳未満であることが条件です。この直近1年要件については保険料未納でも諦めないで──直近1年要件が2036年まで10年延長で詳しく解説しています。
4. 3級には「付かないもの」がある――加算と給付金の落とし穴
「障害年金は配偶者や子がいると加算があります」――これは一般論としては正しいのですが、心疾患で多い3級には当てはまりません。ここも誤解の多いところなので、先に整理しておきます。
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| 加算・給付金 | 金額(令和8年度) | 3級に付くか |
|---|---|---|
| 配偶者加給年金額 | 243,800円(年額) ※生計を維持されている65歳未満の配偶者がいる場合に限ります(大正15年4月1日以前生まれの配偶者には年齢制限なし) | 付きません(障害厚生年金1級・2級のみ) |
| 子の加算(2人目まで) | 1人につき243,800円(年額) | 付きません(障害基礎年金1級・2級のみ) |
| 子の加算(3人目から) | 1人につき81,300円(年額) | 付きません(同上) |
| 障害年金生活者支援給付金 | 1級 月7,025円/2級 月5,620円 | 付きません(障害基礎年金1級・2級の受給者が対象) |
出典:日本年金機構「障害年金ガイド 令和8年度版」、日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」
障害厚生年金3級は「報酬比例の年金額のみ」です
配偶者加給年金額は障害厚生年金の1級・2級に、子の加算は障害基礎年金の1級・2級に加算されるものです。なお配偶者加給年金額は、1級・2級であれば必ず付くわけではなく、生計を維持されている65歳未満の配偶者がいる場合に限られます(大正15年4月1日以前生まれの配偶者には年齢制限はありません)。ご夫婦とも65歳以上という方は、1級・2級でも付きません。障害年金生活者支援給付金も、障害基礎年金1級・2級の受給者が対象です。3級は報酬比例の年金額だけと考えてください。一般向けの説明をそのまま心疾患3級に当てはめると、実際の振込額と食い違います。
4-1. 所得制限の話も混ぜないでください
「障害年金には所得制限がある」という説明を見かけますが、これは20歳前に初診日がある障害基礎年金についての支給制限の話です(前年所得が4,794,000円を超えると全額、3,761,000円を超えると2分の1が支給停止。いずれも令和8年4月時点で扶養親族等がいない場合の額です)。高齢の方が心疾患で請求される通常の障害厚生年金3級には、こうした所得制限はありません。別の制度の話が混ざっているだけです。
とはいえ、3級には最低保障額が定められています。報酬比例部分が少ない方でも、一定額は保障される仕組みです。次の章で金額を見ていきます。
5. 令和8年度(2026年度)の受給額はいくらか
年金額は毎年度改定されます。令和8年度(2026年度)は、前年度から基礎年金が1.9%、厚生年金の報酬比例部分が2.0%の引き上げとなりました(厚生労働省 令和8年1月23日発表)。以下は日本年金機構「障害年金ガイド 令和8年度版」の数字です。
5-1. ペースメーカー等で目安となる「障害厚生年金3級」の最低保障額
| 区分 | 昭和31年4月2日以後生まれ | 昭和31年4月1日以前生まれ |
|---|---|---|
| 障害厚生年金3級の最低保障額(ペースメーカー等はここ) | 635,500円 | 633,700円 |
| 障害基礎年金2級 | 847,300円 | 844,900円 |
| 障害基礎年金1級 | 1,059,125円 | 1,056,125円 |
| 障害手当金(一時金)の最低保障額 | 1,271,000円 | 1,267,400円 |
出典:日本年金機構「障害年金ガイド 令和8年度版」。いずれも令和8年度(2026年度)の額です。
この記事をお読みの方には昭和31年4月1日以前にお生まれの方も多いと思いますので、2つの区分を併記しました。ご自身の生年月日でどちらに当たるかをご確認ください。
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5-2. 3級の最低保障額は「2級の4分の3」で決まっている
635,500円という数字は、どこから出てきたのか。障害基礎年金2級の額の4分の3です。847,300円 × 3/4 = 635,475円。これを100円単位に整えると635,500円になります。昭和31年4月1日以前生まれの方も同様で、844,900円 × 3/4 = 633,675円 → 633,700円です。金額が毎年動くのは、この元になる基礎年金額が改定されるからです。
5-3. 報酬比例の年金額の計算式
報酬比例の年金額 = A + B
A:平均標準報酬月額 × 7.125/1000 × 平成15年3月までの加入期間の月数
B:平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 平成15年4月以降の加入期間の月数
※ 加入期間の合計が300月(25年)未満の場合は、300月とみなして計算します。
出典:日本年金機構「障害年金ガイド 令和8年度版」
3級の場合は、この報酬比例の年金額がそのまま年金額になり、計算結果が最低保障額(635,500円)に届かないときは最低保障額が支給されます。3級は障害厚生年金だけで、障害基礎年金はありません。
1級・2級は、障害厚生年金の額が「1級=報酬比例の年金額×1.25+配偶者加給年金額」「2級=報酬比例の年金額+配偶者加給年金額」となります。1級・2級は、これに障害基礎年金(1級 1,059,125円/2級 847,300円)が上乗せされます。図4の「年金の本体」の行と同じ構造です。たとえば報酬比例の年金額が60万円の方が2級に該当すれば、600,000円+847,300円=1,447,300円が本体の額になります(配偶者加給年金額は、65歳未満の配偶者がいる場合に加わります)。金額の詳しい仕組みは障害年金の金額はいくら?等級別の受給額を社労士が解説にまとめています。
5-4. 障害手当金は「治った(症状が固定した)」場合の一時金です
表に載せた障害手当金(最低保障額1,271,000円)は、年金ではなく一時金です。受給の要件は、初診日に厚生年金保険の被保険者であること、納付要件を満たすこと、そして初診日から5年以内に治っている(症状が固定している)ことなどです。
ペースメーカーを入れて経過観察が続いている状態は、通常この「治った」に当たりません。ですので、心疾患で障害手当金が使えるケースは限られます。「一時金がもらえるらしい」と期待して来られた方に、要件を説明してがっかりさせてしまうことがあるので、あらかじめ書いておきます。
すでに老齢年金を受け取っている方は、障害手当金の対象外です
「治った」に当たるかどうか以前の話として、障害認定日に国民年金・厚生年金保険または共済年金を受け取っている方は、障害手当金を受け取ることができません。日本年金機構の「障害年金ガイド」も、受給要件のところに「国民年金、厚生年金保険または共済年金を受給している方を除きます」と注記し、Q&Aでも「老齢厚生年金を受け取っている方は、障害手当金を受け取ることができません」と明記しています。
この記事をお読みの方の多くは、すでに老齢年金を受け取っておられると思います。その場合、障害手当金という一時金は、はじめから選択肢に入りません。表とグラフに載せた1,271,000円という数字だけを見て期待されないよう、ここではっきり書いておきます。
出典:日本年金機構「障害年金ガイド 令和8年度版」2ページ「受給要件(障害手当金)」、13ページ Q6
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6. 等級は何で決まる?①日常生活の状態(一般状態区分表)
ここからは、機器を入れていない方――心筋梗塞のあと、あるいは心不全が続いている方――にとって本題になる部分です。認定基準は、心疾患の等級認定の考え方をこう説明しています。
心疾患の障害等級の認定は、最終的には心臓機能が慢性的に障害された慢性心不全の状態を評価することである。この状態は虚血性心疾患や弁疾患、心筋疾患などのあらゆる心疾患の終末像である。
出典:日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第11節 心疾患による障害 2 認定要領(2)(令和4年4月1日改正)
平たく言えば、病名そのものではなく、心臓の働きが落ちた結果どれだけ動けなくなっているかを見る、ということです。そのものさしが「一般状態区分表」です。
一般状態区分表(ア〜オ)
- ア:無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの
- イ:軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など
- ウ:歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの
- エ:身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの
- オ:身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの
出典:日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第11節 心疾患による障害 2 認定要領(8)(令和4年4月1日改正)
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認定基準の例示を通して見ると、おおよそ3級はイ・ウ、2級はウ・エ、1級はオが対応しています。ただし、この区分だけで等級が決まるわけではありません。次章の検査所見・臨床所見とセットで判断されます。
6-1. Mets値はあくまで「参考」です
認定基準には(参考)として、区分ごとの身体活動能力(Mets)が示されています。ア=6Mets以上、イ=4Mets以上6Mets未満、ウ=3Mets以上4Mets未満、エ=2Mets以上3Mets未満、オ=2Mets未満です。Metsとは代謝当量のことで、安静時の酸素摂取量(3.5ml/kg体重/分)を1Metsとして、活動時が安静時の何倍かを示すものです。
ただし条文上、これはあくまで(参考)と明記されています。「4Mets以下だから2級」といった具合に、この数字だけで等級を語ることはできません。
6-2. この欄は、診断書の「2 一般状態区分表」そのものです
ポイント:医師がどこに丸を付けるかが、等級に直結します
上のア〜オの文言は、障害年金の診断書(循環器疾患の障害用)の「2 一般状態区分表」欄とまったく同じものです。つまり主治医がどの区分を選ぶかが、そのまま等級判定の材料になります。診察室で「調子はどうですか」と聞かれて、つい「まあまあです」と答えてしまう方は少なくありません。遠慮のない事実――坂道で息が切れて途中で立ち止まる、風呂上がりに動悸がする、夜中に何度も目が覚める、買い物を途中でやめて帰ってきた――を、その場で伝えてください。
認定基準は、臨床所見には自覚症状と他覚所見があるとしたうえで、他覚所見は医師の診察により得られた客観的症状なので「常に自覚症状と連動しているか否かに留意する必要がある」としています。自覚症状と他覚所見は、必ずしも一致しません。だからこそ、診察でご自身の症状をきちんと伝えたうえで、他覚所見や検査所見も診断書に反映してもらうことが大切だ、という趣旨です。診断書を医師に依頼するときのコツは障害年金の診断書の書き方|医師に依頼する際の重要ポイントにまとめています。
7. 等級は何で決まる?②検査の数字と臨床所見の数
もうひとつのものさしが「異常検査所見」です。認定基準は、これをAからIまでの9項目で定めています。
| 記号 | 異常検査所見の内容 |
|---|---|
| A | 安静時の心電図において、0.2mV以上のSTの低下もしくは0.5mV以上の深い陰性T波(aVR誘導を除く。)の所見のあるもの |
| B | 負荷心電図(6Mets未満相当)等で明らかな心筋虚血所見があるもの |
| C | 胸部X線上で心胸郭係数60%以上又は明らかな肺静脈性うっ血所見や間質性肺水腫のあるもの |
| D | 心エコー図で中等度以上の左室肥大と心拡大、弁膜症、収縮能の低下、拡張能の制限、先天性異常のあるもの |
| E | 心電図で、重症な頻脈性又は徐脈性不整脈所見のあるもの |
| F | 左室駆出率(EF)40%以下のもの |
| G | BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が200pg/ml相当を超えるもの |
| H | 重症冠動脈狭窄病変で左主幹部に50%以上の狭窄、あるいは、3本の主要冠動脈に75%以上の狭窄を認めるもの |
| I | 心電図で陳旧性心筋梗塞所見があり、かつ、今日まで狭心症状を有するもの |
出典:日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第11節 心疾患による障害 2 認定要領(7)(令和4年4月1日改正)
※ Hについては、認定基準の注4に「すでに冠動脈血行再建が完了している場合を除く」と補足されています。ステント留置やバイパス術を受けて血行再建が済んでいる場合、過去の狭窄の記録があってもHには当たらない、ということです(同 認定要領(7)注4)。
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7-1. 病名によって「使える記号」が変わります
ここが分かりにくいところです。9項目すべてがどの病気にも使えるわけではなく、疾患区分ごとに使う記号が決まっています。
- 弁疾患:A・B・C・D・E・G のうちいくつ該当するかで判断します。2級は2つ以上、3級は1つ以上が目安ですが、いずれも臨床所見の数と一般状態区分表の該当が別途必要です(2級=臨床所見5つ以上+ウ又はエ、3級=臨床所見2つ以上+イ又はウ)。
- 心筋疾患:弁疾患とは組み立てが違います。2級には「F(EF40%以下)に加えて臨床所見5つ以上+一般状態区分表ウ又はエ」という中核ルートがあり、これとは別にA・B・C・D・E・Gのうち2つ以上+臨床所見5つ以上+ウ又はエ、という道もあります。3級も「EF値50%以下+臨床所見2つ以上+イ又はウ」と、A・B・C・D・E・Gのうち1つ以上+臨床所見1つ以上+イ又はウ、の2本立てです。拡張型心筋症などでEFが低い方は、Fが正面から効く区分です。
- 難治性不整脈:A・B・C・D・F・G のうちいくつ該当するかで判断します(Eは、他の所見と数を合わせるのではなく、「Eがあり、かつ一般状態区分表のウ又はエに該当する」ことで2級の例示に当たるという別ルートのため、個数を数える候補からは外れています。Eだけで2級になるわけではありません)。
- 虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症):記号の限定はなく「異常検査所見が○つ以上」。ただしこちらも、症状の有無と一般状態区分表の該当が併せて求められます。
- 先天性心疾患の3級:C・D・E のうち1つ以上+臨床所見1つ以上+イ又はウ。
出典:日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第11節 2 認定要領(9)①②③④⑥(令和4年4月1日改正)
7-2. 「臨床所見が5つ以上」の中身は診断書に載っています
認定基準には「病状をあらわす臨床所見が5つ以上」といった書き方が出てきます。では、その項目一覧はどこにあるのか。認定基準ではなく、診断書(循環器疾患の障害用・様式第120号の6-(1))の「1 臨床所見」欄にあります。次の13項目です。
診断書の「臨床所見」13項目
- 自覚症状(7項目):動悸/呼吸困難/息切れ/胸痛/咳/痰/失神
- 他覚所見(6項目):チアノーゼ/浮腫/頸静脈怒張/ばち状指/尿量減少/器質的雑音
出典:日本年金機構「診断書作成の留意事項《循環器疾患の障害》」/障害年金診断書(循環器疾患の障害用・様式第120号の6-(1))
この13項目のうち、いくつが該当すると医師に書いてもらえるかが効いてきます。診察のときに症状を伝えていなければ、当然ここは埋まりません。
7-3. 検査資料の添付が原則として求められます
認定基準の注1には、「原則として、異常検査所見があるもの全てについて、それに該当する心電図等を提出(添付)させること」とあります。手元の検査データを揃えてから診断書を依頼する意味は、ここにあります。
また、BNPについては注3で、BNP値はNYHA心機能分類の重症度と良好な相関を持ち、常に100pg/ml以上ならNYHA心機能分類Ⅱ度以上、200pg/ml以上では心不全状態が進行していると判断される、と補足されています。採血の数字が判断材料になるということです。
ポイント:これはチェックリストではありません
ここまで挙げてきた記号や個数は、認定基準が「一部例示」として示しているものです。総論には「総合的に認定する」と繰り返し書かれています。数え上げて当てはまらないからといって、ご自身で結論を出さないでください。個別の判断は日本年金機構が行いますので、必ず確認を取ることをおすすめします。
8. 病名別の目安――心筋梗塞・心不全・弁疾患・不整脈・大動脈疾患
認定基準でいう「心疾患」は、心臓だけでなく血管を含む循環器疾患を指します(血圧そのものは別の節「第17節 高血圧症による障害」で扱われるため、この記事の範囲外です)。区分は6つで、肺血栓塞栓症・肺動脈性肺高血圧症も心疾患による障害として認定されます。
8-1. 虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)
| 等級 | 例示されている状態 |
|---|---|
| 1級 | 病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全あるいは狭心症状を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
| 2級 | 異常検査所見が2つ以上、かつ、軽労作で心不全あるいは狭心症などの症状をあらわし、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
| 3級 | 異常検査所見が1つ以上、かつ、心不全あるいは狭心症などの症状が1つ以上あるもので、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
出典:日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第11節 2 認定要領(9)③(令和4年4月1日改正)
心筋梗塞には、装着物のような認定日の特例はありません
ペースメーカーの話と混同しないでください。心筋梗塞・狭心症は、原則どおり初診日から1年6か月を経過した日(または1年6か月以内に症状が固定した場合はその日)が障害認定日になります。
8-2. 心筋疾患(心不全・拡張型心筋症など)
心筋疾患では、左室駆出率(EF)が2か所に出てきて、しかも数字が違います。ここは混同しやすいので、丁寧に分けます。
- 3級の例示に出てくるのは「EF値が50%以下を示し、病状をあらわす臨床所見が2つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの」。
- 2級の要件に使う異常検査所見Fは「左室駆出率(EF)40%以下のもの」。こちらは第7章の表のFです。心筋疾患の2級には「異常検査所見のFに加えて、病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの」という例示が置かれています。
50%と40%、どちらの話をしているのかで意味がまったく変わります。数字を引用するときは、必ず出典箇所を確かめてください。
また、肥大型心筋症については次の注記があります。「肥大型心筋症は、心室の収縮は良好に保たれるが、心筋肥大による心室拡張機能障害や左室流出路狭窄に伴う左室流出路圧較差などが病態の基本となっている。したがってEF値が障害認定にあたり、参考とならないことが多く、臨床所見や心電図所見、胸部X線検査、心臓エコー検査所見なども参考として総合的に障害等級を判断する。」――EFの数字が良いからといって、対象外と決まるわけではありません。
8-3. 難治性不整脈と心房細動
認定基準は難治性不整脈を「放置すると心不全や突然死を引き起こす危険性の高い不整脈で、適切な治療を受けているにも拘わらず、それが改善しないもの」と定義しています。3級の例示にペースメーカー・ICDの装着が挙げられているのは、この区分です。
高齢の方に多い心房細動については、次のように書かれています。
注2 心房細動は、一般に加齢とともに漸増する不整脈であり、それのみでは認定の対象とはならないが、心不全を合併したり、ペースメーカーの装着を要する場合には認定の対象となる。
出典:日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第11節 2 認定要領(9)④ 注2(令和4年4月1日改正)
「心房細動と言われている」というだけでは対象になりません。ただし、心不全を合併している場合やペースメーカーを入れた場合は対象になりえます。ここも書き分けが必要なところです。
8-4. 弁疾患(人工弁を入れた方が2級を目指す場合)
人工弁は原則3級ですが、2級の例示も置かれています。ひとつは「人工弁を装着術後、6ヶ月以上経過しているが、なお病状をあらわす臨床所見が5つ以上、かつ、異常検査所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの」。もうひとつは「異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち2つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの」です。術後6か月以上経過という時間の条件が入っているのが弁疾患の特徴です。
8-5. 大動脈疾患(人工血管・ステントグラフト)
人工血管は「入れれば3級」ではありません
大動脈疾患で例示されているのは3級だけで、しかも条件付きです。「胸部大動脈解離(Stanford分類A型・B型)や胸部大動脈瘤により、人工血管を挿入し、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの」(人工血管にはステントグラフトも含まれます)。人工弁やペースメーカーが「装着したもの」だけで例示になっているのと違い、一般状態区分表の条件が付いています。また、第1章で触れたとおり、人工血管は装着日が認定日になる特例にも含まれていません。
もうひとつの3級の例示は「胸部大動脈解離や胸部大動脈瘤に、難治性の高血圧を合併したもの」です。この「難治性の高血圧」は、注で「塩分制限などの生活習慣の修正を行った上で、適切な薬剤3薬以上の降圧薬を適切な用量で継続投与しても、なお、収縮期血圧が140mmHg以上又は拡張期血圧が90mmHg以上のもの」と定義されています。単に血圧が高いというだけではなく、生活習慣の修正と3剤以上の服薬を続けてもなお下がらない、という前提が付いています。
なお注では「大動脈疾患では、特殊な例を除いて心不全を呈することはなく(中略)従って、一般的には1・2級には該当しないが、本傷病に関連した合併症(周辺臓器への圧迫症状など)の程度や手術の後遺症によっては、さらに上位等級に認定する」とされています。
8-6. 心臓の病気が重なっている場合
認定基準には「心血管疾患が重複している場合には、客観的所見に基づいた日常生活能力等の程度を十分考慮して総合的に認定する」とあります。心不全と腎不全を併せ持っている方、心房細動から脳梗塞を起こされた方もいらっしゃいます。関連するものとして人工透析で障害年金はいくら?原則2級と初診日の落とし穴、脳梗塞・脳出血で障害年金は受給できる?もあわせてご覧ください。
9. 何年も前に装着した方へ――さかのぼり請求・5年の時効・65歳の壁
9-1. 障害認定日から1年以上経っていても請求できます
日本年金機構「障害年金ガイド」には、こう書かれています。障害認定日から1年以上経過している場合であっても、障害認定日時点の障害の状態がわかる診断書と現在の障害の状態(請求日前3か月以内の症状)がわかる診断書を用意することにより、障害年金を請求することができる、と。
ペースメーカーを何年も前に入れられた方でも、その装着日にさかのぼって請求する道があるということです。
9-2. ただし5年で時効にかかります
同じガイドに続けて、「ただし、5年以上前の年金については、時効により受け取ることができません」とあります。10年前にペースメーカーを入れた方でも、受け取れるのは請求時点から過去5年分までです。
逆に言えば、障害認定日がすでに5年以上前になっている方の場合、手続きが1年遅れれば、その1年分は時効で受け取れなくなります。障害厚生年金3級の最低保障額なら、1年で635,500円にあたります(障害認定日がまだ5年以内の方は、遅れてもその時点では時効で消える分はありません)。思い当たる方は、できるだけ早く動くことをおすすめします。詳しい仕組みは障害年金の遡及請求とは?過去5年分を取り戻す方法にまとめています。
9-3. 65歳という期限があります
高齢の読者の方にとって、いちばん見落としやすいのが年齢の話です。混同しやすいので、2つに分けます。
- 障害認定日による請求(さかのぼる請求)――障害認定日の時点の状態で判定するもの。
- 事後重症による請求(あとから重くなった場合の請求)――日本年金機構「障害年金ガイド」の受給要件フローに、請求は65歳の誕生日の前々日までと明記されています。
また、保険料納付要件の特例(直近1年間に未納がないこと)は、初診日において65歳未満であることが条件です。「今ペースメーカーを入れたから請求できる」とは限らず、初診日がいつで、当時どの制度に入っていたかが分かれ道になります。
9-4. すでに老齢年金を受け取っている方へ
すでに老齢基礎年金・老齢厚生年金を受け取っておられる方が、あらためて障害厚生年金3級を受けられるかどうかは、年金の併給の仕組みが関わってきます。この点は個別性が高く、ご自身の年金の種類と受給状況によって結論が変わりますので、この記事では断定しません。年金事務所またはご相談で個別にご確認ください。お電話でおおよその見当をお伝えすることはできます。
9-5. 装着後に体調が良くなった場合(更新)
障害年金には、原則として更新(再認定)があります。ペースメーカーを入れて体調が安定した場合、更新時の診断書の内容によって等級が変わることがあります。とくにCRT・CRT-D・人工心臓・心臓移植については、第2章で見たとおり条文上も「1〜2年程度経過観察したうえで再認定する」とされています。障害年金の更新(再認定)完全ガイドで詳しく解説しています。
「ペースメーカーを入れて仕事に戻ったが、働いていると受け取れないのでは」というご質問もよくいただきます。就労と受給の関係は働きながら障害年金を受給できる!パート・短時間労働でもOKをご覧ください。
10. 申請の流れと必要書類(心疾患の場合)
実際の手続きは、次の6つのステップで進みます。
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10-1. ステップ①〜③:入口を固める
- 初診日を特定する――その病気で初めて医師にかかった日を確かめます。動悸や心電図異常でかかりつけ医に相談した日が初診日になることもあります。
- 加入制度と納付要件を確認する――初診日に厚生年金だったか国民年金だったか、保険料の納付状況はどうか。ここで結論が大きく変わります(第3章)。
- 受診状況等証明書を取る――初診の病院で作成してもらう書類です。初診の病院と診断書を書く病院が同じ場合は不要になることもあります。
10-2. ステップ④:診断書は「循環器疾患の障害用」
心疾患で使う診断書は「循環器疾患の障害用(様式第120号の6-(1))」です。ここが申請の山場になります。
- ペースメーカー・ICD・人工弁の方は、装着日と装着した機器が分かる記載が要になります。装着日が障害認定日になるからです。
- 手術の記録、心電図、心エコー、胸部X線、BNPの採血結果など、検査データを揃えてから依頼します。異常検査所見に該当するものは、原則として資料の添付が求められます(第7章)。
- 「1 臨床所見」と「2 一般状態区分表」の欄が等級判定に直結します(第6章・第7章)。
さかのぼって請求する場合は、診断書が2枚必要です(障害認定日当時のもの+請求日前3か月以内の現在の状態のもの)。当時のカルテが残っているうちに動く意味は、ここにあります。
10-3. ステップ⑤:病歴・就労状況等申立書
ご自身(またはご家族)が書く唯一の書類です。心疾患の場合、次のような日常生活の事実を具体的に書いていきます。
- 階段や坂道で息が切れて途中で立ち止まるようになった
- 買い物や入浴が負担になり、途中で休むようになった
- 夜間に息苦しくて何度も目が覚める、横になって眠れない
- 外出をやめた、畑仕事や町内の役をやめた
- 仕事の内容を軽くしてもらった、勤務時間を減らした
これらは、一般状態区分表のどこに当たるかを裏づける材料になります。書き方は障害年金の病歴・就労状況等申立書の書き方|受給を左右する7つのコツ、よくある落とし穴は障害年金申請の【あるある失敗5選】にまとめています。
10-4. 身体障害者手帳とは別の制度です
ペースメーカーを入れると、身体障害者手帳(心臓機能障害)を取得される方が多くいらっしゃいます。ただし手帳と障害年金は、根拠になる法律も判定の基準も別です。手帳を持っていても、障害年金は自分で請求しなければ支給されません。詳しくは障害年金と障害者手帳の違いとは?をご覧ください。
10-5. ご相談について
当事務所は長門市・萩市・美祢市を中心に対応しています。ご本人が来所困難な場合は、ご家族だけのご相談も可能です。手術直後で体がつらい時期、あるいはご高齢で外出が難しい時期であることはよく理解しています。まずはお電話でお話をお聞かせください。相談先の選び方については長門市で障害年金の相談ならどこへ?社労士が選び方のポイントを解説もご参考にどうぞ。
11. よくあるご質問
Q1. ペースメーカーを入れれば、必ず障害年金がもらえますか?
A1. 必ずではありません。認定基準では、ペースメーカーやICDを装着したことが3級の例として挙げられていますが、3級は障害厚生年金にしかない等級です。初診日に厚生年金に加入していた方であれば3級の対象になりえますが、初診日に国民年金だけだった方は、状態が2級以上に該当しない限り支給されません。また保険料の納付要件も必要です。ご自身がどちらに当たるかは、初診日がいつで、その日にどの年金に入っていたかで決まります。最終的な等級の判断は日本年金機構が行いますので、必ずご確認ください。
Q2. 5年前にペースメーカーを入れました。今からでも請求できますか?
A2. できる可能性があります。ペースメーカー・ICD・人工弁は装着した日が障害認定日になるという特例があるため、過去の装着日にさかのぼって請求する道があります。障害認定日当時の状態がわかる診断書と、現在の状態(請求日前3か月以内)がわかる診断書の2枚を用意すれば請求できます。ただし5年以上前の年金は時効により受け取れませんので、遅れるほど受け取れる分は減っていきます。カルテの保存期間の問題もありますので、思い当たる方は早めにご相談ください。
Q3. 自営業で国民年金しか入っていません。ペースメーカーを入れましたが対象になりますか?
A3. ペースメーカー装着そのもので目安となる3級は、障害厚生年金にしかない等級です。国民年金の障害基礎年金には1級と2級しかないため、3級相当にとどまる場合は支給されません。ただし「国民年金だから必ずだめ」ではありません。心不全の症状が続き、日常生活が大きく制限されている状態であれば、2級に該当する可能性があります。また、初診日が会社勤めをしていた頃であれば、その後に自営業になっていても障害厚生年金を請求できます。初診日がいつかが分かれ道になります。
Q4. ペースメーカーを入れたあと仕事に戻りました。働いていると受け取れませんか?
A4. 働いていることだけを理由に受け取れなくなるわけではありません。障害認定基準は3級を「労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度」としており、就労と両立しうる等級です。ただし、診断書や申立書に日常生活や仕事の制限が何も書かれていなければ、実態より軽く判断されてしまうおそれがあります。無理を押して働いている、業務内容を軽くしてもらった、といった事情はきちんと伝えることが大切です。
Q5. 人工弁を2つ入れました。1つのときより等級は上がりますか?
A5. 原則としては上がりません。認定基準には「複数の人工弁置換術を受けている者にあっても、原則3級相当とする」と明記されています。また、抗凝固薬の使用による出血傾向についても「重度のものを除き認定の対象とはしない」とされており、服薬そのものが等級を押し上げる材料にはなりません。2級の例として挙げられているのは、人工弁を装着術後6か月以上経過してもなお臨床所見が5つ以上あり、異常検査所見が1つ以上あり、かつ一般状態区分表のウ又はエに該当する場合などです。
Q6. 心房細動と言われています。障害年金の対象になりますか?
A6. 心房細動だけでは対象になりません。認定基準は「心房細動は、一般に加齢とともに漸増する不整脈であり、それのみでは認定の対象とはならないが、心不全を合併したり、ペースメーカーの装着を要する場合には認定の対象となる」としています。逆に言えば、心不全を合併している場合やペースメーカーを入れた場合は対象になりえます。心房細動から脳梗塞を起こされた場合は、脳の障害として別の基準で判断されることもあります。
Q7. 心筋梗塞で倒れました。ペースメーカーと同じで、すぐに請求できますか?
A7. いいえ、心筋梗塞にはペースメーカーのような認定日の特例はありません。原則どおり、初診日から1年6か月を経過した日(または1年6か月以内に症状が固定した場合はその日)が障害認定日になります。ここは間違えやすいところで、「心臓の病気なら1年6か月待たなくていい」というわけではありません。装着日が認定日になるのは心臓ペースメーカー・ICD・人工弁の3つだけです。心不全や大動脈の手術も、この特例には入っていません。
Q8. CRT-Dを入れました。2級と聞きましたが、ずっと2級のままですか?
A8. そうとは限りません。認定基準はCRT・CRT-Dを2級としていますが、同じ条文に「術後は次の障害等級に認定するが、1~2年程度経過観察したうえで症状が安定しているときは、臨床症状、検査成績、一般状態区分表を勘案し、障害等級を再認定する」という但し書きがあります。人工心臓や心臓移植の1級にも同じ但し書きがかかります。更新(再認定)の時期に体調が良くなっていれば等級が変わることもありますので、更新時の診断書も大切です。
Q9. 身体障害者手帳(心臓機能障害)を持っています。障害年金も自動でもらえますか?
A9. 自動ではもらえません。身体障害者手帳と障害年金は、根拠になる法律も判定の基準もまったく別の制度です。手帳の等級と障害年金の等級は一致しませんし、手帳を持っていても障害年金は自分で請求しなければ支給されません。逆に、手帳の等級が軽くても障害年金の対象になることもあります。「手帳をもらったから年金も出ているはず」と思って何年も請求していなかった、という方は少なくありません。
まとめ
心臓の病気で障害年金を考えるとき、押さえるべき点は2つです。ひとつはペースメーカー・ICD・人工弁なら、初診日から1年6か月以内に装着していれば、その装着した日が障害認定日になり、1年6か月待たずに請求できること。もうひとつは、その特例で届く「3級」は障害厚生年金にしかなく、初診日にどの年金に入っていたか(そもそも請求できる初診日か)で結論が変わることです。この2つを取り違えると、請求できるのに待ってしまったり、期待して落胆したりすることになります。
本記事のポイント:
- 装着日=障害認定日:ペースメーカー・ICD・人工弁の3つだけの特例(初診日から1年6か月を超える場合を除く)
- 特例に入らないもの:CRT・CRT-D、人工心臓、心臓移植、人工血管、心筋梗塞、心不全は原則どおり1年6か月
- 原則3級:ペースメーカー・ICD・人工弁は3級の例示。CRT・CRT-Dは2級、人工心臓・心臓移植は1級
- 3級は障害厚生年金だけ:初診日に国民年金だけだった方は、3級相当にとどまる限り支給されない
- 3級に加算はない:配偶者加給年金・子の加算・生活者支援給付金はいずれも1級・2級のみ
- 令和8年度の3級最低保障額は635,500円(昭和31年4月1日以前生まれは633,700円)
- 判定は総合的:一般状態区分表(ア〜オ)と異常検査所見(A〜I)、臨床所見13項目を合わせて判断される
- さかのぼりは5年まで:1年遅れれば1年分が時効で消える。事後重症の請求は65歳の誕生日の前々日まで
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- 日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第3 第1章 第11節 心疾患による障害(令和4年4月1日改正)
- 日本年金機構「障害年金ガイド 令和8年度版」
- 日本年金機構「診断書作成の留意事項《循環器疾患の障害》」/障害年金診断書(循環器疾患の障害用・様式第120号の6-(1))
- 日本年金機構 用語集「障害認定日」/「障害等級表」
- 日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」(令和8年1月23日)
本記事は令和8年(2026年)8月時点の制度、および令和4年4月1日改正の障害認定基準に基づいています。等級の認定は日本年金機構が個別に行うものであり、本記事の記載は目安です。個別の事案は状況により結論が異なりますので、詳しくはご相談ください。
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