脳梗塞・脳出血で障害年金は受給できる?麻痺・高次脳機能障害・失語症の認定基準を社労士が解説【2026年版】

脳梗塞・脳出血の後遺症で受給できます

しかも「1年6か月」を待たずに申請できる特例があります――社労士が徹底解説

脳梗塞や脳出血で倒れ、命は助かったものの、片麻痺が残った、言葉が出にくくなった、以前のように段取りができなくなった――。ご本人にとってもご家族にとっても、生活が一変する出来事です。

こうした脳血管疾患の後遺症は、障害年金の対象です。それだけでなく、脳血管疾患には「1年6か月を待たずに申請できる特例」という、他の傷病にはない大きな特徴があります。この特例を知らずに1年待ってしまい、本来もらえたはずの年金を取り逃がす方が少なくありません。

この記事では、山口県長門市の社労士が、対象になる3つの障害、6か月特例の使い方、診断書の様式選び、初診日の考え方、実例4ケースまで、この記事1本で分かるように解説します。

1. 脳梗塞・脳出血で対象になる3つの障害

脳血管疾患の後遺症は多岐にわたりますが、障害年金の申請では大きく3つの障害に整理できます。どれに当てはまるか(あるいは複数当てはまるか)で、使う診断書の様式が変わります。

障害①

肢体の機能障害
(片麻痺など)

もっとも代表的な後遺症

  • 片麻痺・不全麻痺
  • 歩行に杖・装具が必要
  • 階段昇降が困難
  • 手指の巧緻動作ができない
  • 着替え・入浴に介助が必要
障害②

高次脳機能障害

見た目に分かりにくい「隠れた障害」

  • 記憶障害(すぐ忘れる)
  • 注意障害(集中が続かない)
  • 遂行機能障害(段取りが組めない)
  • 社会的行動障害(怒りっぽい)
  • 半側空間無視
障害③

言語機能の障害
(失語症・構音障害)

コミュニケーションの障害

  • 運動性失語(言葉が出ない)
  • 感覚性失語(理解できない)
  • 構音障害(呂律が回らない)
  • 読み書きが困難
  • 嚥下障害を伴うことも

ポイント:「見た目に分かる障害」だけで判断しない

ご家族が最初に気づくのは麻痺ですが、実は生活を最も苦しめているのは高次脳機能障害だったというケースが非常に多くあります。「怒りっぽくなった」「同じことを何度も聞く」「約束を忘れる」「料理の手順が分からなくなった」――これらは性格の変化ではなく、脳の損傷による立派な障害です。申請では必ず一緒に評価してもらいましょう。

2.【最重要】1年6か月を待たずに申請できる「6か月特例」

障害年金は原則として、初診日から1年6か月経過した日(障害認定日)を待たないと請求できません。しかし脳血管疾患には、これを短縮できる重要な特例があります。

脳血管疾患の特例

初診日から6か月経過後、「症状固定」が認められれば申請できる

障害認定基準では、脳血管障害による機能障害について、初診日から6か月を経過した日以後に、医学的にみて「これ以上の機能回復がほとんど見込めない」(=症状固定)と認められる場合、その症状固定日を障害認定日として取り扱うとされています。

通常の傷病(原則ルール)

初診日から1年6か月は請求できない
障害認定日 → 請求OK

初診日から1年6か月経過してはじめて障害認定日が到来します。

脳血管疾患(特例が使える場合)

6か月は待つ
症状固定が認められた日=障害認定日 → 請求OK

最大1年早く受給を開始できます。その分、受け取れる年金額が数十万円〜100万円以上変わることもあります。

ただし条件があります。「6か月経てば自動的に認められる」わけではなく、①6か月経過前は請求できない、②医師が診断書に症状固定(機能回復の見込みがない旨)を明記していることが必要です。

高次脳機能障害は原則どおり1年6か月とされることが多い

この特例は主として肢体の機能障害(麻痺)を想定したものです。高次脳機能障害は「精神の障害」として扱われ、症状固定の概念になじみにくいため、原則どおり1年6か月を待つとされるケースが多くなります。麻痺と高次脳機能障害の両方がある場合、「どの時点で、どの診断書を出すか」で受給開始時期も等級も変わるため、判断が難しい場面です。迷ったら申請前にご相談ください。

なお、障害認定日から時間が経ってしまった方でも、過去5年分まで遡って請求できる可能性があります。詳しくは障害年金の遡及請求とは?をご覧ください。

3. 等級の目安と認定のポイント

脳血管疾患の等級は、日常生活動作(ADL)がどれだけ自力でできるかと労働にどれだけ制限があるかで判断されます。以下は肢体の障害を中心とした実務上の目安です。

等級 状態の目安 典型例
1級 身のまわりのことがほとんどできず、常時介助が必要 重度の片麻痺で寝たきりに近い、両上下肢の機能を廃した、重度の高次脳機能障害で常時見守りが必要
2級 日常生活に著しい制限があり、就労は困難 片麻痺で屋外歩行に介助が必要、片手がほぼ使えない、失語症で意思疎通が困難、高次脳機能障害で日常生活に常時援助が必要
3級 労働に著しい制限がある(障害厚生年金のみ) 杖と装具で歩行可能だが階段昇降に介助が必要、軽度〜中等度の麻痺で従前の仕事に戻れない、構音障害・軽度失語で業務に支障

ポイント:3級は「障害厚生年金」のみ

脳梗塞・脳出血は就労中の現役世代に発症するケースも多い疾患です。会社員として勤務中(厚生年金加入中)に発症していれば3級も対象になり、2級以上なら基礎年金と厚生年金の両方を受給できます。一方、自営業・専業主婦・退職後(国民年金加入中)の発症では3級は対象外で、2級以上を目指す必要があります。詳しくは障害厚生年金と障害基礎年金の違いをご覧ください。

認定で重視される評価項目

  • 関節可動域・筋力(徒手筋力テスト):肢体の診断書で数値化される
  • 日常生活動作の評価:つまむ・握る・タオルを絞る・立ち上がる・階段昇降・片足立ちなどを「できる/一人でできるが不自由/一人ではできない」で判定
  • 補助具の使用状況:杖・下肢装具・車椅子の使用頻度
  • 高次脳機能障害の程度:日常生活能力の判定(食事・清潔保持・金銭管理・通院服薬・対人関係・身辺安全・社会性)
  • 就労状況:休職中/復職後の配置転換・時短・業務内容の軽減の有無

4. 診断書の様式選びと「併合認定」

脳血管疾患は複数の障害が同時に残ることが多いため、診断書の様式選びが結果を大きく左右します。

脳血管疾患で使う診断書様式

  • 肢体の障害用(様式第120号の3):片麻痺・不全麻痺など、手足の機能障害が中心の場合
  • 精神の障害用(様式第120号の4):高次脳機能障害(記憶・注意・遂行機能・社会的行動の障害)がある場合
  • 言語機能の障害用(様式第120号の2):失語症・構音障害など、話す・聞く・伝えることに障害がある場合
  • その他の障害用(様式第120号の7):上記に収まらない障害(嚥下障害・排尿障害等)が主体の場合

複数の障害があるなら「併合認定」を狙う

2つ以上の障害がある場合、それぞれを診断書で証明することで「併合認定」が行われ、単独では届かない等級に認定されることがあります。

併合認定のイメージ

左片麻痺
単独なら3級相当
+
失語症
単独なら3級相当
→
併合認定で
2級

基礎年金も受給できるようになり、年額が大きく変わります

診断書を1通しか出さないと併合されません

年金機構は提出された診断書の範囲でしか判断できません。麻痺と失語症の両方があるのに「肢体の障害用」1通だけを出せば、失語症は評価されず3級止まりになります。「どの障害について、どの様式を、何通出すか」の設計こそが、脳血管疾患の申請で最も重要な部分です。

障害年金の診断書の書き方、病歴・就労状況等申立書の書き方も併せてお読みください。

5. 初診日はいつ?高血圧・糖尿病との関係

脳梗塞・脳出血の初診日は、比較的分かりやすいケースが多い一方で、「持病があった場合はどうなるのか」という疑問がよく寄せられます。

脳血管疾患の初診日を判定する3ステップ

1

発症して医療機関にかかった日を確認

救急搬送された日、あるいは呂律が回らない・手足のしびれ等で受診した日が原則の初診日。救急搬送の記録は必ず残っているため、証明は比較的容易です。

2

高血圧・糖尿病の通院歴は初診日にならない

障害認定基準上、「高血圧症と脳出血・脳梗塞」には相当因果関係がないとされています。糖尿病と脳血管疾患も同様です。したがって、長年の高血圧通院があっても初診日は脳梗塞発症時です。

3

その日の年金加入状況を確認

在職中に発症していれば障害厚生年金(3級もあり)、退職後・自営業・専業主婦なら障害基礎年金(2級以上)が対象になります。

「因果関係なし」は受給者に有利に働きます

「持病の高血圧が初診日になると、若い頃の未納期間が響くのでは」と心配される方がいますが、逆です。初診日が脳梗塞発症時(=在職中)になることで、障害厚生年金の対象になり、3級の可能性も開けるためです。なお、糖尿病でも糖尿病性腎症・網膜症・壊疽は因果関係が「ある」とされ扱いが異なります。判断に迷ったら障害年金の初診日とは?証明方法もご確認ください。

6. 実例で見る受給ケース

実際にどのような状況で受給しているのか、代表的な4ケースをご紹介します(個人情報保護のため、複数事例を参考にした典型例として構成しています)。

ケース① 脳梗塞 障害厚生年金3級

56歳男性・会社員:右片麻痺で6か月特例を使って申請

状況:勤務中に脳梗塞を発症し救急搬送。右片麻痺が残り、回復期リハビリ病棟で6か月リハビリ。杖と短下肢装具で歩行可能だが階段は手すり必須、右手の細かい作業は不可。事務職への配置転換で復職。

ポイント:主治医が診断書に「症状固定・これ以上の機能回復は見込めない」と明記。初診日から約7か月で請求し、1年6か月を待つより約11か月早く受給開始。

診断書様式:肢体の障害用(第120号の3)

📊 年額 約64万円〜(障害厚生年金3級・報酬比例で加算)/早期請求で約58万円分を取り逃さずに済んだ計算
ケース② 脳出血 障害基礎年金2級

68歳女性・年金生活者:左片麻痺と失語症の併合認定

状況:自宅で倒れ脳出血。左片麻痺に加え運動性失語が残り、単語は出るが文章での会話は困難。屋内は伝い歩き、屋外は車椅子。買い物・調理・金銭管理は家族が代行。

ポイント:麻痺と失語症はそれぞれ単独では3級相当だったが、肢体・言語の診断書を2通提出して併合認定により2級に。

診断書様式:肢体の障害用(第120号の3)+ 言語機能の障害用(第120号の2)

📊 年額 約81万6千円(障害基礎年金2級)
ケース③ くも膜下出血 障害厚生年金2級

44歳男性・会社員:麻痺は軽度だが高次脳機能障害が重い

状況:くも膜下出血で緊急手術。麻痺はごく軽度で見た目には健常者と変わらないが、記憶障害・注意障害・易怒性が顕著。同じ質問を繰り返す、予定を忘れる、感情のコントロールができず対人トラブル。復職を試みたが3か月で休職。

ポイント:ご本人に病識がなく「自分は治った」と主張していたため、妻が日常の困りごとを日誌に記録し、それをもとに医師へ情報提供。日常生活能力の実態が診断書に反映され2級認定。

診断書様式:精神の障害用(第120号の4)

📊 年額 約145万円(障害基礎年金2級 84.7万円 + 障害厚生年金2級 報酬比例約60万円)
ケース④ 脳梗塞(再発) 障害基礎年金1級

72歳男性・自営業:再発により重度の障害が残る

状況:1度目の脳梗塞は軽症で復帰したが、2年後に再発。両下肢麻痺と重度の嚥下障害・高次脳機能障害が残り、経管栄養と全介助の状態。特別養護老人ホームに入所。

ポイント:初診日は再発時ではなく1度目の脳梗塞の受診日となる可能性があり、その特定が争点に。当時の受診記録を確認して初診日を確定させた。

診断書様式:肢体の障害用(第120号の3)+ その他の障害用(第120号の7)

📊 年額 約102万円(障害基礎年金1級)

65歳以降でも受給できるケースがあります

ケース②・④のように高齢で発症した場合でも、初診日に国民年金の被保険者であった、または国内在住の60歳以上65歳未満であれば対象になります。また、65歳以降でも老齢年金を繰下げ待機中の方や、在職して厚生年金に加入中に発症した方は障害厚生年金の対象になり得ます。「高齢だからもう無理」と諦める前に一度ご相談ください。

7. よくある失敗・注意点

① 6か月特例を知らずに1年6か月待ってしまう

脳血管疾患で最も多い機会損失です。症状固定が認められれば最大1年早く受給が始まります。3級でも年間約64万円、2級なら約85万円――待った期間の分だけ、そのまま失われます。

② 高次脳機能障害を申請に含めない

「麻痺の診断書だけ出せばいい」と思い込み、生活を最も苦しめている高次脳機能障害を評価してもらわないケース。併合認定のチャンスを逃します。

③ 診察室では「できる」と答えてしまう

短い診察時間で、ご本人は頑張って歩いて見せ、「大丈夫です」と答えてしまう。その姿だけを見た医師は軽めの診断書を書きます。自宅での実際の状態を、ご家族が具体的に伝えることが不可欠です。

④ 高次脳機能障害は本人に自覚がないことが多い

病識の欠如は高次脳機能障害の典型的な症状です。ご本人の申告だけでは実態が伝わりません。ご家族が日誌やメモで「いつ・何が・どう困ったか」を記録し、それを診断書と申立書の材料にしましょう。

⑤ 申立書と診断書の内容が食い違う

診断書に「独歩可能」とあるのに申立書に「歩行不能」と書くと、矛盾として不利に働きます。両者の整合性を確認してから提出しましょう。障害年金申請のあるある失敗5選も要チェックです。

脳血管疾患の申請は「設計」で結果が変わります

いつ請求するか(6か月特例を使うか)、どの様式を何通出すか、併合認定を狙うか――脳血管疾患は、判断ポイントが他の傷病より格段に多い分野です。ご本人が書類作成をするのが難しいケースも多く、ご家族の負担も大きくなりがちです。ご家族のみでのご相談も承っています。不支給になった場合の対処法、自分でやる?社労士に頼む?も参考にどうぞ。

8. よくある質問(FAQ)

Q1. 脳梗塞・脳出血で障害年金はもらえますか?

A1. 受給できます。脳血管疾患の後遺症は障害年金の対象で、主に(1)片麻痺などの肢体の機能障害、(2)記憶障害・注意障害などの高次脳機能障害、(3)失語症・構音障害の言語機能障害の3つが認定対象になります。これらが複数残っている場合は「併合認定」により、単独よりも上位の等級に認定される可能性があります。

Q2. リハビリ中でも申請できますか?1年6か月待つ必要がありますか?

A2. 脳血管疾患には特例があります。通常は初診日から1年6か月経過した日が障害認定日ですが、脳血管疾患による機能障害は、初診日から6か月経過した日以後に「医学的にみてこれ以上の機能回復がほとんど見込めない(症状固定)」と認められる場合、その症状固定日を障害認定日として申請できます。ただし6か月経過前は申請できず、症状固定の医学的判断が必要です。高次脳機能障害については原則どおり1年6か月とされることが多く、判断が分かれるため専門家への相談をおすすめします。

Q3. 高次脳機能障害だけでも障害年金の対象になりますか?

A3. 対象になります。麻痺が軽くても、記憶障害・注意障害・遂行機能障害・社会的行動障害などによって日常生活や就労に著しい支障がある場合、「精神の障害用(様式第120号の4)」の診断書で認定を受けられます。高次脳機能障害はご本人に自覚(病識)がないことが多いため、ご家族が日常生活の困りごとを具体的に記録し、医師に伝えることが認定のカギになります。

Q4. 高血圧で長年通院していました。初診日は高血圧の受診日になりますか?

A4. なりません。障害認定基準では「高血圧症と脳出血・脳梗塞」は相当因果関係がないものとして取り扱われます。したがって初診日は、脳梗塞・脳出血を発症して医療機関にかかった日(救急搬送された日など)になります。糖尿病と脳血管疾患の関係も同様に因果関係なしとされます。これは会社員在職中に発症した方にとって有利に働き、障害厚生年金の対象になるケースが多くなります。

Q5. 杖を使えば歩けますが、障害年金の対象になりますか?

A5. 対象になる可能性があります。障害年金は「歩けるかどうか」だけで判断されるものではなく、日常生活動作(立ち上がる・階段の昇降・物を持つ・着替え・入浴など)がどの程度自力でできるか、労働にどれだけ制限があるかで総合的に評価されます。片麻痺で杖と装具を使用し、屋外歩行や階段昇降に介助が必要な状態であれば、障害厚生年金3級や2級に認定される例があります。

Q6. 麻痺と失語症など複数の障害がある場合はどうなりますか?

A6. 「併合認定」の対象になります。片麻痺(肢体の障害)と失語症(言語機能の障害)、高次脳機能障害(精神の障害)が併存する場合、それぞれの診断書を提出することで併合され、単独では3級相当でも2級に認定されるケースがあります。ただし、必要な診断書を提出していないと併合の判断自体がされないため、どの様式を何通出すかの設計が非常に重要です。

まとめ

脳梗塞・脳出血の後遺症は障害年金の対象であり、しかも1年6か月を待たずに申請できる特例という他の傷病にはない強みがあります。知っているかどうかで、受け取れる金額が大きく変わります。

本記事のポイント:

  • 3つの障害が対象:肢体の機能障害/高次脳機能障害/言語機能の障害
  • 6か月特例:症状固定が認められれば最大1年早く受給開始できる
  • 併合認定を狙う:複数の診断書を出すことで上位等級の可能性
  • 高次脳機能障害を見落とさない:見た目に分かりにくいが生活への影響は大きい
  • 初診日は脳梗塞発症時:高血圧・糖尿病の通院歴とは因果関係なし
  • ご家族の記録が武器になる:本人に病識がないケースが多い
  • 65歳以降の発症でも可能性あり:諦める前に確認を

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