ADHD・ASDで障害年金は受給できる?大人の発達障害の認定基準を社労士が解説【2026年版】

大人ADHD・ASDで悩んでいる方へ

働きにくい・続かない・人間関係がしんどい――
その「生きづらさ」は障害年金の対象になるかもしれません

「大人になってからADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉症スペクトラム)と診断された」――そんな方が、近年急増しています。学生時代は何とかなっていても、社会人になって仕事や人間関係で限界を感じ、初めて医療機関を受診するケースです。

「障害者手帳も持っていないし、自分は障害年金の対象じゃないだろう」と諦めていませんか?実は、大人になってから診断されたADHD・ASDでも障害年金を受給できる可能性は十分あります

この記事では、山口県長門市の社労士が、ADHD・ASDそれぞれの認定基準、WAIS検査の数値の意味、等級判定のポイント、申請のコツまで、実例とともに詳しく解説します。

1. ADHDとASDの違いと特徴

ADHDとASDは、どちらも発達障害に分類されますが、特徴は大きく異なります。両者を併発している方も少なくありません。

ADHD
(注意欠如・多動症)

  • 不注意:集中できない・忘れ物が多い
  • 多動性:じっとしていられない・落ち着かない
  • 衝動性:考えずに行動してしまう
  • 仕事のミスが多く、注意され続ける
  • 締切が守れず、業務が積み上がる
  • 整理整頓・スケジュール管理が困難

ASD
(自閉症スペクトラム)

  • 対人関係の困難:相手の気持ちが分からない
  • こだわり:変化に弱い・パターン化を好む
  • 感覚過敏:音・光・匂いが辛い
  • 言葉の裏が読めず、誤解される
  • 雑談・空気を読むのが苦手
  • 環境変化で強いストレス

併発するケースが多い

ADHDとASDは併発することが珍しくありません(推定30〜50%)。両方の特性がある場合、生活への影響もより大きく、障害年金の認定でも総合評価されます。

2. 大人の発達障害が増えている背景

「最近、大人の発達障害が多い」と感じる方もいるかもしれません。実は、発達障害そのものが増えたのではなく、診断・認知が広がったと言われています。背景は以下のとおりです。

  • 診断基準の整備:DSM-5(2013年)以降、成人の発達障害も明確に診断できるように
  • 社会の変化:マルチタスク・対人能力が求められる職場が増え、特性が問題化しやすい
  • SNSでの情報拡散:「自分もそうかも」と気づく機会が増えた
  • 二次障害からの気づき:うつ病で受診→根本に発達障害があったというケース

つまり、子供時代から特性はあったが、社会人になって初めて医療機関を受診したという方が大半です。「大人になってからの診断」は障害年金申請の障壁にはなりません

3. 障害年金の認定基準(ADHD・ASD共通)

ADHD・ASDで障害年金を受給するための基準は、「精神の障害」の認定基準に基づきます。具体的には、以下の3つの観点から総合的に評価されます。

① 日常生活能力の評価

診断書では、以下の7項目で日常生活がどれだけできるかが「(1)〜(4)」で評価されます。

  • 適切な食事
  • 身辺の清潔保持
  • 金銭管理と買物
  • 通院と服薬
  • 他人との意思伝達及び対人関係
  • 身辺の安全保持及び危機対応
  • 社会性

「単身で生活したらどうか」が基準

家族と同居している場合も、「もし1人で生活したら」を想定して評価されます。家族の支援で何とかなっている場合は、その支援内容を申立書で具体的に書くことが重要です。

② 就労状況の評価

仕事の有無・形態だけでなく、「仕事を続ける上での困難・配慮」が評価されます。

  • 勤務形態(フルタイム・短時間・障害者雇用)
  • 業務内容と求められるレベル
  • 職場での配慮事項(時短・業務制限・休憩)
  • 欠勤・早退・遅刻の頻度
  • 就労継続支援A型/B型の利用有無
  • 過去の離職歴・短期離職の繰り返し

③ 知的能力の評価(WAIS等の心理検査)

ADHD・ASDの場合、WAIS-IV(成人知能検査)などの心理検査結果が診断書に添付されることが多く、認定の判断材料になります。詳細は次のセクションで説明します。

4. WAIS検査の数値の意味

大人ADHD/ASDの方が受ける代表的な心理検査がWAIS-IV(ウェクスラー成人知能検査 第4版)です。診断書に検査結果が添付されることが多く、障害年金の認定でも参考にされます。

WAIS-IVの4つの指標とFSIQ

WAIS-IVでは、全体的な知能を表すFSIQ(全検査IQ)と、4つの認知領域それぞれの数値が出ます。

VCI
言語理解

言葉で考え、表現する能力。語彙力や概念理解

PRI
知覚推理

視覚情報を処理し推論する能力。図形やパズル

WMI
ワーキングメモリ

情報を一時的に保持し操作する能力

PSI
処理速度

単純な視覚情報を素早く正確に処理する能力

認定で重視されるのは「数値そのもの」より「ばらつき」

「FSIQが平均(90〜109)だから障害年金は無理」と思いがちですが、大切なのは4つの指標間のばらつき(ディスクレパンシー)です。

パターン 意味 認定への影響
4指標が均等 全体的に同程度の能力 FSIQの数値が主な評価対象
指標間に15以上の差 能力に偏りがある(発達障害の典型) 「総合的な遂行困難」として認定の参考に
処理速度(PSI)が極端に低い ADHDで多く見られるパターン 業務遂行困難の根拠として有効
言語理解(VCI)と知覚推理(PRI)の差大 ASDで多く見られるパターン コミュニケーション困難の根拠に

FSIQ100でも認定されるケース

例えばFSIQ=105(平均)でも、VCI=125・PSI=78のように35もの差があれば「能力の偏りで日常生活に支障」と評価され、2級や3級で認定されることがあります。数値だけで諦めないでください。

5. 等級判定の目安

ADHD・ASDの障害年金は、1級・2級・3級で認定されます。それぞれの目安は以下のとおりです。

等級 状態の目安 年金額(2026年度)
1級 他人の援助を受けなければほとんど自分のことができない。日常生活全般に常時の援助が必要 年間 約102万円
2級 必ずしも他人の援助を受けなくてもよいが、日常生活が極めて困難で、労働で収入を得ることができない 年間 約81万円
3級 労働が著しい制限を受けるか、または労働に著しい制限を加えることを必要とする状態(厚生年金のみ) 年間 約61万円

ADHD/ASDで多い等級は?

大人ADHD/ASDで申請する方の多くは 2級か3級 で認定されます。1級は重度の知的障害を併発しているなど、日常生活に常時援助が必要なケースに限られます。

障害年金の金額について詳しくはこちらもご覧ください。

6. 大人ADHD/ASD特有の困難

申立書で書くべき「大人ADHD/ASD特有の困難」を、4つの領域に分けて整理します。これらを具体的に書くことが受給可否を分けます

就労での困難

就労

  • マルチタスクができず、複数業務を抱えると混乱
  • 締切・スケジュール管理が困難で、業務が積み上がる
  • 指示の優先順位がつけられず、上司から繰り返し注意される
  • 会議や雑談で空気が読めず、人間関係が悪化
  • 短期離職を繰り返す(3か月〜1年で退職を5回以上など)
  • 業務中の集中切れで、ミスを連発

対人関係での困難

  • 相手の表情・声色から感情を読めない
  • 言葉の裏(皮肉・冗談)が理解できず、誤解する/される
  • 雑談が苦手で、孤立しがち
  • 友人関係が長続きしない
  • 結婚生活・親子関係でトラブルが続く

日常生活での困難

日常

  • 家事(掃除・洗濯・料理)が継続できない
  • 金銭管理ができず、衝動買い・浪費が続く
  • 役所手続きや銀行など、複雑な手続きが1人でできない
  • 感覚過敏で人混み・騒音・蛍光灯が辛く、外出が制限される
  • ルーティンが崩れるとパニックになる

二次障害

二次障害

  • うつ病(長年の生きづらさで自己肯定感が低下)
  • 不安障害・パニック障害
  • 適応障害(職場ストレスで休職を繰り返す)
  • 睡眠障害

申立書には「具体的なエピソード」で書く

「対人関係が苦手」だけでなく「会議中に黙ってしまい、月1回上司から指導される。3つの職場で同じ理由で退職した」のように、頻度・場所・反応をセットで書くと審査員に実態が伝わります。

詳しい申立書の書き方は「病歴・就労状況等申立書の書き方|7つのコツ」をご覧ください。

7. 申請のコツとよくある失敗

申請の3つのコツ

① 子供時代の特性を申立書に書く

大人で診断されても、発達障害は先天性です。子供時代の特性(学校での孤立・忘れ物・授業中の落ち着きのなさなど)を申立書に書くことで、「20歳前傷病」として申請しやすくなります。

家族・親に当時の様子を聞き取りしてメモにまとめましょう。20歳前傷病による障害基礎年金も参考に。

② 検査結果を必ず添付

WAIS-IVだけでなく、AQ(自閉症スペクトラム指数)、CAARS(ADHD評価スケール)など、関連検査の結果はすべて診断書に添付してもらいましょう。客観的な指標が多いほど、認定根拠が強くなります。

③ 二次障害がある場合は必ず記載

うつ病・不安障害などの二次障害がある場合、両方を診断書に記載してもらいましょう。基礎疾患(発達障害)と二次障害(うつ病等)を併記することで、生活への影響を総合評価してもらえます。

よくある失敗

  • 「働いてるから対象外」と諦める:障害厚生年金3級は「労働に著しい制限がある状態」が対象。働いていても受給可能
  • 初診日を間違える:「精神科の初診」ではなく「症状を最初に医師に相談した日」が初診日。初診日の証明方法も参考に
  • 診断書を医師に丸投げ:日常生活の困難を伝えないと軽く書かれる。診断書の書き方を参考に準備を
  • 申立書を簡単に済ませる:「対人関係が苦手」だけでは伝わらない。具体例で書く

これらの失敗を詳しく解説した記事もあります:障害年金申請の【あるある失敗5選】

8. 受給ケース紹介(3例)

長門市・萩市・美祢市で実際にサポートしたケース(個人が特定されないよう改変)を紹介します。

ケース①:30代男性・ADHD単独・障害基礎年金2級

FSIQ=98 / PSI=72(処理速度が極端に低い)

大学卒業後、3つの会社で短期離職(最長6か月)を繰り返し、29歳でうつ病で受診。検査でADHDと診断された。「初診は29歳だから20歳前傷病は無理」と諦めていたが、母親から「小学校時代から忘れ物が多く、宿題ができなかった」との聞き取りで20歳前傷病として申請。2級認定で月額約6.8万円受給

ケース②:40代女性・ASD単独・障害厚生年金3級

FSIQ=110(平均上) / VCI=128 PSI=85(差43)

事務職で週30時間勤務(障害者雇用)。FSIQが高いため「能力はある」と判断されがちだが、指標間のばらつきと、職場の配慮(業務を限定・指示書面化)を申立書で詳述。3級認定で年額約61万円受給。働きながら受給可能。

ケース③:20代男性・ADHD+ASD併発+うつ病・障害基礎年金2級

FSIQ=82 / 全指標で低め

就労継続支援B型に通所。両親と同居。生活全般に支援が必要だが「家族がいるから1人でも何とかなる」と書くのではなく、家族の支援内容を具体的に記載(食事準備・服薬管理・金銭管理を全て母親が実施)。2級認定で月額約6.8万円受給

9. よくある質問(FAQ)

Q1. 大人になってからADHD/ASDと診断された場合も障害年金の対象ですか?

A1. 対象になります。発達障害は先天性のため、初診日は20歳前とみなされるのが基本ですが、大人になってから初めて受診・診断された場合でも、子供時代の特性が確認できれば20歳前傷病として申請可能です。日常生活や就労に著しい支障があれば、2級または3級の認定を受けられる可能性があります。

Q2. WAIS検査の数値はどう評価されますか?

A2. WAIS-IV(成人知能検査)の全検査IQ(FSIQ)と、4つの指標(言語理解・知覚推理・ワーキングメモリ・処理速度)のばらつき(ディスクレパンシー)が重視されます。FSIQが平均でも、指標間に15以上の差があれば「能力の偏り」として認定の参考になります。検査結果は診断書に添付するのが一般的です。

Q3. ADHDとASDでは等級判定に違いがありますか?

A3. 認定基準は共通ですが、評価で重視される点に違いがあります。ADHDは「不注意・多動・衝動性による業務遂行困難」、ASDは「対人関係・コミュニケーション・こだわりによる社会生活困難」が中心です。両方を併発している方も多く、その場合は総合評価で等級判定されます。

Q4. 障害者手帳がなくても障害年金は申請できますか?

A4. 申請できます。障害年金と障害者手帳は別制度で、手帳がなくても診断書と申立書で年金は申請可能です。ただし、精神障害者保健福祉手帳があると、診断書の整合性確認や認定に有利な情報が増えるため、取得を検討する価値はあります。詳しくは障害年金と障害者手帳の違いをご覧ください。

Q5. 障害者雇用で働いていても受給できますか?

A5. 受給できる可能性があります。障害厚生年金3級は「労働に著しい制限がある状態」が対象で、障害者雇用での就労継続支援や配慮を受けながら働いている場合も対象になります。重要なのは「働いている事実」ではなく「働く上での困難・配慮」を申立書で正確に伝えることです。詳しくは働きながら障害年金を受給できる!をご覧ください。

Q6. 二次障害でうつ病になっている場合はどう申請すべきですか?

A6. ADHD/ASDが原因でうつ病・不安障害を併発するケースは非常に多く、その場合は基礎疾患(発達障害)を主とし、うつ病を二次障害として総合的に申請するのが一般的です。両方の症状を診断書と申立書に記載し、生活への影響を包括的に伝えることで、より上位等級での認定が見込めます。

まとめ

大人になってからADHD・ASDと診断された方も、障害年金を受給できる可能性は十分あります。重要なのは、子供時代からの特性、現在の生活・就労での困難、検査結果のばらつきを正確に伝えることです。

本記事のポイント:

  • ADHDとASDは異なる特性:認定基準は共通だが評価ポイントが異なる
  • 大人診断でもOK:子供時代の特性が確認できれば20歳前傷病として申請可能
  • WAIS検査はばらつきが重要:FSIQが平均でも、指標間の差が大きければ認定の参考に
  • 働いていても受給可能:障害厚生年金3級は労働制限がある状態が対象
  • 二次障害は併記する:うつ病等を併発している場合は総合評価される
  • 申立書は具体的に:頻度・場所・反応をセットで書く

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